異人問津館 ( click here for english version )
98年8月20日、ソニーミュージック香港からCDとCD-ROMの2枚組アルバム『EVERYBODY IS A SUPERSTAR』でデビューした異人問津館は、3人の香港人の男の子から成るユニットである。

私が香港の邦文月刊誌『香港通信』(現在は休刊)に、近々アルバムを発表するという彼らのインタビューを載せたのが、97年の2月。それが今になってようやく実現した、その理由とは……を書き連ねていくとキリが無いのだが、要するに、彼らの作品が、これまでの香港の常識的な音楽(つまり売れ線)とあまりにかけ離れていて、誰も(彼ら自身も)どーしていいのかわからなかった、ということである。結局1年半も待たされた彼らは気の毒だったが、結果的に念願のメジャーデビューが果たせたのだからよかったじゃん、というのが私の正直な気持だし、それに、今、この時期にデビューというのは、まさにグッドタイミング、「満を持しての登場!」という気がしている。なぜなら、このアルバムには、低迷する現在の香港の音楽シーンに活を入れる要素が、たっぷり詰まっているからだ。異人問津館という奇妙な名は、中国語の「無人問津(誰も尋ねて来ない)」という言葉をひとヒネリしたものだそうだ。ここでいう「異人」とは、「奇異な人、もしくは奇異な物が好きな人」という意味で、異人問津館とは、「変な奴らが集まって来る場所」と解釈すればいいのだろう。だから、異人問津館のメンバーは3人だが、このアルバム製作には、数多くの「異人」仲間が参加している。有名無名を問わず、ユニークな才能を持った「異人」達と、互いに刺激しあいながら作品を創っていく、というのが異人問津館の基本姿勢で、アイドルが鎮座して、プロデューサーとマネージャーと作家達が、ワッセワッセとみこし担ぎ状態で作る従来の香港のアルバムとは、根本的に違う。

このアルバムの形態からもわかるように、これまでは歌の副産物のような存在だったMTVに力を入れ、ゲーム要素のあるCD-ROMとCDが独立しつつワンセットになっている。ソニーミュージックから発売されているので、つい音楽を中心に書いてしまうが、カッコイイ映像にカッコイイ音楽が付いていると思ってもいいのである。とにかく、歌手がメロドラマを演じている従来のMTVとは根本的に次元が違うのだ。異人問津館のキャッチコピーは「音を見ろ、色を聴け」。 音楽と映像の融合というのも、これまでの香港には見られなかった表現方法で、異人問津館の名にまことにふさわしい。では、異人問津館の3人のメンバーを紹介しよう。音楽を担当しているのが、丁偉斌(ジェームス・ティン=Dr.PARQUIX=)。94年からプロの作曲家として活動を始め、これまで鄭伊健(イーキン・チェン)、梁漢文(エドモンド・リョン)、鄭秀文(サミー・チェン)らに、曲を提供している。昨年のサミーのヒット曲『一夜成名』『星秀伝説 EVERYBODY IS A SUPERSTAR』『表演時間』も、彼の作曲である(余談だが、サミーの『EVERYBODY−−』は、ジェームスの『EVERYBODY−−』のデモを聴いたサミーのプロデューサーがインスパイアされて命名したもので、異人問津館がサミーをパクったのではないので、念の為)。ジェームスの音楽の特徴は、一連のサミーの曲からも明らかなように、6、70年代の歌謡曲を彷彿させる。ジェームス自身の言葉を借りれば、「色気のある」メロディライン。このスタイルは異人問津館にも生かされていて、アルバム中の『黒蜥蜴』は、その好例である。

ビジュアルを担当しているのが、陳家慶(チャン・カーヒン=大地=)と翁国賢(ヨン・コッイン/阿賢=異然=)。明確な役割分担はないが、今回は、MTVを家慶が、CD-ROMを阿賢が中心になって製作している。家慶は、カナダの美術大学で絵画を学び、後にコンピュータグラフィックス(3D)に転向した。もともとダリに強く傾倒していて、彼の中に培われたダリ的世界を表現するのに、3Dの手法を選んだのだそうだ。各種コンクールでの受賞経験も多く、このアルバムに収録されている『大[人+老][人+尓]想点?』の MTV* は、香港インディペンデント映画コンクールで特別賞を受賞し、海外の映画祭でも上映された。一方の阿賢は、もともと異人問津館のサポートスタッフである「異人」仲間の1人として製作に携わっていたのだが、デザインセンスと、オブジェ製作の手腕を買われて、正式メンバーの座についた。現在、広告代理店でアートディレクターを勤める彼のプロフィールはユニークで、92年から2年間「ART MUSIC」というライブハウスを兼ねた小さな店を開き、当時の香港では手に入れにくかったインディーズのCDや書籍類、自分でデザインした服などを売っていた。相当オルタナティヴで、とんがった店だったようだ。そもそも阿賢とジェームス、家慶が知り合ったのもこの店で、阿賢は、異人問津館の主にふさわしい経歴の持ち主だったわけである。 さて、肝心のこのアルバムについて紹介しよう。まずCDは、ダンスミュージック、ハードコア・テクノ、トリップ・ホップ、軍歌(?!)…… など、異なるスタイルの曲が続きちょっと戸惑うのだが、聴き進んで行くと、このアルバムが「渾沌と再生」をテーマにしていることがわかる。それは広い意味で言えば、20世紀末から21世紀へという今の時代そのものだし、もっと身近な例でいえば、バブルがはじけてオロオロ状態の現在の香港の姿でもある。『大[人+老][人+尓]想点?(まったく、どうしろっていうんだ?)』などはそのものズバリだし、続く『作鬼作邪』には「打小人(呪いババア)」が登場、いよいよ神だのみかよ…と、広東語の歌詞がわかる人ならノックアウトされる、ハードな1曲もある。

ビジュアルの方は、さらにカオス感が強調され、彼らの独特のユーモアに溢れている。特にCD-ROMの中に出現する自動打小人機。打小人というのは、特定の日にガード下などに現れる祈祷師のおばあさん達のことで、呪い料(日本円で1000円くらい)を払うと、呪いの対象となる人物の名前を書いた紙を靴で叩き、依頼人のために呪ってくれるのである。こんな原始的な呪術儀式が今も残っているだけで十分驚きなのに、私がさらに仰天したのは、ある時たまたまこの日、銅鑼湾・鵝頸橋のガード下を通りかかったら、会社帰りのOLたちが押すな押すなの行列を作っていて、通り抜けできないほど賑わっていたのである。呪いがそんなに日常化していていいのかしらん、くわばらくわばら……。異人問津館の描く世界では、呪いはさらにコンビニエンスになり、コイン1つで呪ってくれるのだ。以前、彼らに、興味のあるアーティストを尋ねたことがある。すると三島由紀夫、寺山修司、梅図かずお、丸尾末広、らの名を挙げた。彼らの作品に描かれるグロテスクでエロティックな世界は、香港人(中国人)の常識ではタブー。だからこそ、あえてドロドロした人間の内面を表現したい、と意欲を見せる。とはいっても、そこは現代っ子の彼ら。エログロと今どきのドライな感性がどうミックスするか、異人問津館の見どころの1つが、そのあたりにありそうだ。最後に。異人問津館の音楽のプロダクション・チームは、カナダのトロントに拠点を置いている。ジェームスのメインスタジオがカナダにあるためで、この『EVERYBODY−−』の音楽のほとんどもカナダで製作された。参加ミュージシャンもカナダ在住者が中心である。香港からの移民が多く住むカナダは、香港人の感覚では「隣街」なのだそうで、『大[人+老][人+尓]想点?』も、ジェームスと家慶が国際電話で相談しながら、音楽と映像を完成させたのだそうだ。引き続き、多民族国家であるカナダの特徴を生かして、華僑以外のアーティストとのコラボレーションを計画中ということで、東と西のミックスから何が生まれるかも楽しみだ。香港の常識からいうと「型破り」という言葉がピッタリな異人問津館。繰り返すが、今、香港は社会全体に元気がなく、音楽シーンも、アイドル不振を乗り越える次なる活路を見い出せないでいる。異人問津館が起爆剤となって、若い才能が登場し、音楽シーン、いや、アートシーン全体に新しい風が起こったらどんなに楽しいだろう。期待を込めて、異人問津館のこれからを見つめて行きたい。
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BUY CD:
Text: Noriko Tojo
Coordinate: Shinobu Koike
Special Thanks to 異人問津館 (Freaks Rendezvous), Sony Music Entertainment(HK)Ltd. & Noriko Tojo.

